江戸川本坊の浄縁墓の建つ場所は、境内の中心にあたる場所。本堂やロビーからも見渡せる證大寺の一等地です。とはいえ、都会の中のお寺の、墓石に囲まれた限られたスペース。周囲には豊かな自然環境もございません。これまでの和泉先生の手がける作品に用意されていたような、その国を代表するとっておきの場所に比べると、本当に申し訳なく感じておりました。しかし、和泉先生が初めてこの場所を訪れた際、「こんなにいい場所を用意してくれて、もったいない」と仰ってくださったのです。山もなく、緑も少ない、墓石に囲まれたこの場所を、なぜそう評してくださったのか。浄縁墓が建立されるまで、私たちにはわかりませんでした。

その答えに私たちが気づかされたのは、浄縁墓を囲むように香炉としての石と供花を手向ける石、これら二つの立派な石が据えられたときでした。和泉先生が静かな声で「深山に分け入るよう...。」と表現されたのです。そこで、初めて気づきました。都会の境内にあるお墓も、新たに置かれた浄縁墓も、ただの墓石ではなく、すべては山からいただいた恩(めぐみ)そのものなのだ、と。「この浄縁墓が完成することで、周囲のお墓が喜ぶような、境内全体が調和するようなものにしたい」とくり返し述べておられた和泉先生には、都会のお寺の中に大きな山が見えていたのだと思います。これからも生涯をかけて、和泉先生が浄縁墓に込めてくださった願いに向き合い、大切に護持してまいります。 第二十世 住職 釋浄慈